Wi-Fi 7 とは?
Wi-Fi 7(IEEE 802.11be)とは、最新の無線 LANの規格です(2024 年 9 月時点)。「Wi-Fi」は、無線 LAN 規格の普及促進を目的とした業界団体 Wi-Fi Alliance による相互認証を通った機器に付けられる呼称です。
無線 LANの規格は「IEEE 802.11+アルファベット」の形式で表されますが、ユーザーにわかりやすくするため、世代によって番号が付けられています。たとえば、 IEEE 802.11n は Wi-Fi 4、 IEEE 802.11ac は Wi-Fi 5、IEEE 802.11ax は Wi-Fi 6 / 6E と呼ばれ、Wi-Fi 7(IEEE 802.11be)は第 7 世代にあたります。 基本的に世代が新しくなるほど速度が向上するなど、技術的に進化しています。
1 世代前の規格である Wi-Fi 6 / 6E は、一つの Wi-Fi ルーター(以下ルーター)で複数デバイスの快適な通信と効率的なデータ処理ができるよう設計されました。Wi-Fi 7 では、これらに加えて、さらなる高速通信や通信品質の向上を実現しています。
Wi-Fi 7 の最大通信速度は、Wi-Fi 6 / 6E の 9.6 Gbps から 46 Gbps に向上し、1 秒あたりに転送できるデータ量は 480% アップしました。さらに通信効率を高める技術が多数採用され、電波が混み合っていても速度が低下しにくく、スムーズな通信を可能にしています。
日本では、2023 年 12 月 22 日に総務省が電波法施行規則を改正し、国内で 320 MHz の帯域幅が利用可能になったため、Wi-Fi 7 による通信ができるようになりました。
Wi-Fi 7 | Wi-Fi 6E | Wi-Fi 6 | |
最大データ転送速度 | 最大 46 Gbps | 最大 9.6 Gbps | 最大 9.6 Gbps |
帯域幅(チャンネル幅) | 最大 320 MHz | 最大 160 MHz | 最大 160 MHz |
周波数帯 | 2.4 GHz、5 GHz、6 GHz | 2.4 GHz、5 GHz、6 GHz | 2.4 GHz および 5 GHz |
多重リンク操作 (MLO) | 〇 | ✕ | ✕ |
変調方式 | 4096-QAM OFDMA | 1024-QAM OFDMA | 1024-QAM OFDMA |
ストリーム数 | 16 ストリーム | 8 ストリーム | 8 ストリーム |
※記載の内容は規格上の最大値です。使用機種や環境によって内容は異なります。
Wi-Fi 7 の特徴
ここでは、超高速通信や低遅延といった Wi-Fi 7 の特徴や、どのような技術が用いられているのかについて解説します。
さらなる高速通信
Wi-Fi 7 では、通信速度を向上させる技術が多く使われています。
- 帯域幅が倍に
帯域幅とは、単位時間当たりに送信できるデータの最大容量のことです。Wi-Fi 6 / 6E では 160 MHz 幅での通信でしたが、Wi-Fi 7 の 6 GHz 帯を利用する場合は 320 MHz 幅で通信を行います。帯域幅が倍になったことにより、単位時間当たりのデータ転送量が増えるので、通信速度が速くなります。
道路にたとえるなら、2 車線の道路(160 MHz 幅)が 4 車線(320 MHz 幅)に増えたようなものです。車線が倍になったことでより多くの車(データ)が通れるようになる、と考えると理解しやすいでしょう。 - 複数の周波数帯の同時利用、低遅延
Wi-Fi 6 は 2.4 GHz 帯、5 GHz 帯、(Wi-Fi 6E は 6 GHz 帯も利用可能)のいずれかを使って通信します。一方 Wi-Fi 7 は、MLO という技術によって複数の周波数帯を同時に使用します。これにより帯域幅が広がるため、従来よりも高速な通信が可能です。
先ほどと同じく道路にたとえるなら、 Wi-Fi 6 / 6E は一度に使える道路(周波数帯)が一つだけですが、Wi-Fi 7 は複数の道路(周波数帯)を同時に使えます。このため、車(データ)をたくさん走らせても混雑しづらくなり、よりスムーズにデータを送信できるというわけです。
また、MLO は複数の帯域を使って同じデータをそれぞれに送信することもできます。この方式で送信すれば、途中で通信のエラーが発生しても、いずれかの帯域のデータは届くため、エラー時の再送の回数が減り、遅延を少なくできます。
そのため Wi-Fi 6 / 6E と比較して、遅延時間も大幅に改善すると言われています。 - 変調方式の改善
変調方式とは、データを伝送するときに電気信号に変換する方式のことです。Wi-Fi 6 / 6E では、一度に表現できる情報量を 32 × 32 のマス目で表現する 1024 QAM という方式でしたが、Wi-Fi 7 では 64 × 64 のマス目で表現する 4096 QAM の方式を採用しています。
大きい車が小さい車よりもたくさん荷物を運べるように、1024 QAM よりも 4096 QAM のほうが、より多くのデータを送ることができます。これにより、通信速度が最大で 1.2 倍になります。なお、4096 QAM は距離が遠いとエラーが発生しやすく、従来の変調方式が使われる場合もあります。そのため、ルーターとスマホ間の距離が離れている場合は、期待した速度が出ない可能性もあります。
- 16 ストリーム MIMO を採用
MIMO とは、複数の通信経路でデータを同時伝送する技術で、この MIMO で使う通信経路の数(アンテナの数。ただし物理的なアンテナとは限らない)を、ストリームといいます。Wi-Fi 6 / 6E では、同一周波数で最大 8 本でしたが、Wi-Fi 7 では最大 16 本まで拡張されます。そのため通信速度が向上し、より多くのデバイスとの通信がさらにスムーズになります。
8 車線だった道路が、最大 16 本に増えたことでより多くの車(データ)が同時に走ることができ、さらにスムーズに走行(通信)できるようになるのです。
この機能は、ルーターに搭載されているアンテナ数に依存するため、ルーターの機種によっては、最大の 16 ストリームに対応しないものもあります。
向上した通信品質
Wi-Fi 7 では通信速度の向上に加え、通信品質を上げる技術も多く使われています。
- より効率の良い通信(Multi-RU 技術)
Wi-Fi は、特定の電波の範囲を特定のユーザーに割り当て、そこで通信をする仕組みとなっています。このユーザーへの割り当てを「RU(Resource Unit)」といいます。Wi-Fi 6 / 6E までは 1 ユーザーにつき 1 つの RU のみ利用できましたが、Wi-Fi 7 で採用されている Multi-RU は、1 ユーザーに対して、複数の RU を割り当てられるようになりました。
従来よりも電波の使用効率が良くなるため、複数のユーザーに帯域を効率よく割り当てられます。従来は 1 人のドライバー(ユーザー)が 1 つの車線(RU)しか使えませんでしたが、Wi-Fi 7 では空いている複数の車線も使えるようになります。道が広く使えるため、効率よく進む(通信を行う)ことができるのです。
なお、接続しているデバイスが少ないほど、さらに高速に通信できるようになります。 - 他デバイスの干渉の影響が少ない(パンクチャリング)
従来の Wi-Fi 規格では、特定の周波数域内で別のデバイスが干渉するとその範囲を使えず、周波数域内全体に影響が出ることがありました。Wi-Fi 7 では、干渉する部分を間引いて確保するプレアンブル パンクチャリング(以下パンクチャリング)という機能があります。
周波数域内の一部に問題があっても、パンクチャリングによって問題のある部分だけを避けられるため、干渉による大きな速度低下が起きにくくなります。
これも道路にたとえるとわかりやすいかもしれません。従来の Wi-Fi 規格では、特定の道路(周波数帯)で工事(別デバイスの干渉)があった場合、その道路全体が使えなくなっていました。一方、パンクチャリング機能を搭載する Wi-Fi 7 では、道路の一部で工事が行われていても工事区間だけを避けて通行できます。そのため、スムーズな交通(データ通信)を維持できるのです。 - 高度なセキュリティ
Wi-Fi 6 / 6E と同様に、Wi-Fi 7 でも、セキュリティ規格 WPA3 が採用されています。WPA3 とは 2018 年 6 月に Wi-Fi Alliance が発表した、暗号化に関する最新のセキュリティ規格です。前の規格である WPA2 と比べてセキュリティの強度が高くなっているため、安心して利用できます。 - 従来の規格との互換性
Wi-Fi 7 には下位互換性があるため、同じ周波数帯であれば、Wi-Fi 7 に対応していないデバイスも通信可能です。たとえば Wi-Fi 5 しか対応していないスマホでも、Wi-Fi 7 対応のルーターにつなげることができます。そのため、ルーターを Wi-Fi 7 にしたからといって、スマホやタブレットなどすべてのデバイスを一気に買い替える必要はありません。
ただし、通信速度はそれぞれのデバイスの規格に合わせられます。たとえば Wi-Fi 7 対応のルーターに Wi-Fi 5 対応のスマホと Wi-Fi 7 対応のスマホを接続した場合、Wi-Fi 5 対応のスマホは Wi-Fi 5 の速度で、Wi-Fi 7 対応のスマホは Wi-Fi 7 の速度で通信します。
Wi-Fi 7 によるメリットを受けやすい人
では、実際に Wi-Fi 7 のメリットを十分に活かせるのは、どのような人でしょうか。ここでは、具体的な例を交えて紹介します。
- 10 Gbps 以上の回線を引いている人
10 Gbps 以上の高速なインターネット回線を引いている人であれば、Wi-Fi 7 でその速度を十分に活かすことができます。4K や 8K のビデオ ストリーミング、大容量のファイル ダウンロードやアップロードが更に快適になるでしょう。また、ビデオチャットの遅延も少なくなります。 - 家庭内の複数デバイス間の通信速度を向上したい人
家の中のデバイス同士で大容量ファイルをやり取りする場合にもメリットを感じられるでしょう。たとえば、スマホで撮影した 4K 動画をパソコンに送信する際などに、スムーズに通信できます。 - オンライン ゲームで極力低遅延の環境にしたい人
一部のオンライン ゲームは、大容量のデータ送受信が必要です。遅延(ラグ)があるとスムーズにプレイできませんが、Wi-Fi 7 は低遅延のため、快適なゲーム環境を整えられるでしょう。 - 多くのスマートホーム デバイスを使用している人
照明やセキュリティ カメラ、スマート スピーカーなど、複数のスマートホーム デバイスを使用する人にも Wi-Fi 7 は役立ちます。複数のスマートホーム デバイスが同時に動作してネットワークの混雑や干渉が発生したとしても、複数の周波数帯を同時利用できる MLO によって、より安定した環境を構築できます。 - 電波が混雑している環境にいる人
Wi-Fi 7 は環境や状況に応じて最適な周波数帯(2.4 GHz 帯、5 GHz 帯、6 GHz 帯)を使用します。混雑している周波数帯を避けられるため、マンションなど電波が混雑している環境の人も、より快適な通信環境を期待できます。
Android スマホで Wi-Fi 7 を使うには
ここでは、Android スマホで Wi-Fi 7 を利用するために必要なものを説明します。
Wi-Fi 7 に対応したスマホ
Android スマホで Wi-Fi 7 を使うには、そのスマホが Wi-Fi 7 に対応している必要があります。執筆時現在(2024 年 9 月)、対応している機種はまだ多くありませんが、たとえば、Google Pixel 9 シリーズは、Wi-Fi 7 が利用可能ですし、今後も対応デバイスは増えていくでしょう。お使いのスマホや検討しているスマホが Wi-Fi 7 に対応しているかを確認するには、公式サイトのスペック表に書かれている通信関連の項目をご覧ください。
Wi-Fi 7 に対応したルーター
Wi-Fi 7 を利用するにはルーターも Wi-Fi 7 に対応している必要があります。Wi-Fi 7 に対応したスマホやデバイスを手に入れたら、Wi-Fi 7 対応のルーターの導入を検討するとよいでしょう。
先に述べたように、Wi-Fi 7 には下位互換性があるため、Wi-Fi 7 に未対応のスマホも接続できます。ただし、その場合は、Wi-Fi 7 の高速通信や低遅延のメリットは活かせません。また、Wi-Fi 7 を利用しても、ご契約中のインターネット回線速度以上に速くすることはできませんので、注意しましょう。
次世代規格 Wi-Fi 7 で通信をより快適に
Wi-Fi 7 は、高速通信を実現した最新の Wi-Fi 規格です。従来の規格と比較して、超高速、低遅延、大容量なので、一度により多くのデバイスを快適に利用できます。、10Gbps 以上の高速インターネット回線を引いている人や、オンライン ゲームでよく遊ぶ人はメリットを感じやすいでしょう。
Wi-Fi 7 の機能を最大限に利用するには、ルーターだけでなくデバイス側も Wi-Fi 7 に対応している必要があります。Google Pixel 9 シリーズをはじめ、Wi-Fi 7 対応のスマホやデバイスも登場しつつありますので、将来的により快適な通信環境を楽しめるよう、Wi-Fi 7 対応のルーターやデバイスを少しずつ取り入れてみてはいかがでしょうか。
※本記事で紹介した内容は、執筆時(2024 年 9 月)のものです。